「挽く妖精」
カリカリ。
「何を挽いてるの」
涼やかな声。答えない。
カリカリ。
それは私の手元から。
「ねえ、何を貴方は」
私は応えず、行使するのは大臼。
直感に反する軽妙な音。
「きいてるの」
貴女は訊いている。私は聞いている。
挽音だけを私は聴いている。
「答えなさいよ」
軽やかさが、涼しく木陰に響いている。
そろそろ。
「私は」
随分と挽いてきた。
「やっと答える気になったの」
カリカリ。
「詩人」
耳を澄ます。
沈黙の呼吸音、それから彼女の羽音。
木の葉の噪音と、一陣の風音。
臼。
「なので」
目を開けると、ホバリングする小さな顔。
「意味を挽く」
「待っ」
お喋りな隣人と私との最後の壁。
「または、物語」
「嫌!」
当然の拒絶。
なぜなら彼女らは、物語の実行者。
言葉を組み上げ、構造に依って感情に干渉する。
「物語の冗長から言霊を開放」
しかし言葉は霊的なまま新たな秩序で組まれ得る。
「聞きたくない!やめて!ごめんなさい」
絶叫。決裂は避らぬ結末。
「詩性」
「あたしに、死ねって言うの」
穏当な帰結。
羽は輝きを失っていく。
「あ、ああ」
私は臼の手を止める。
「それは物語の翼」
嗚咽を漏らし臼の上にへたり込む貴女。
「であった」
色の白い掌へ、否定された妖精を載せ。
「ごめんね」
妖精の否定。
だけれど、私も妖精。
飛ぶ羽は既に朽ちているが。
「そして」
詩を主張して、古から同胞を挽き続けた。
死を背負って、意味と物語を擂り潰した。
「私も物語で」
風が些か荒くなって。
「詩になれなくて」
無数の羽音の幻聴がして。
「やがて」
葉の擦音がにわかに増して。
「挽かれ――