「むつこい」考
おはようございます。手札事故(id:handjiko https://twitter.com/hand_accident/ )です。
TL埋める程度にツイートで呻き続けたのでブログ記事にできる文量が吐かれた
— 2.5+ (@hand_accident) 2018年11月9日
1億年ぶりにブログ書くか
— 2.5+ (@hand_accident) 2018年11月9日
活動があり、書きをします。
話題は、方言です。
日本語には多様な方言がありますがその全てが標準語とは多少なれ音韻、語彙、或いは文法などに相違を持っている以上、方言で育った者が第二言語として標準語を学ぶには「つっかえ」が時に発生します。
発音やアクセントの違いなり文法要素の有無やバリエーション*1*2なりも慣れに若干の脳負荷を要してフラストレーティングですが、標準語にない複雑な意味・ニュアンス・概念を持った簡潔な語が通じなくて翻訳にまどろっこしい説明を強いられるときなど厳しいです。
嫌だなあ。
「むつこい」、あるいは「むつごい」*3という形容詞があります。
あって、これが該当のです。
一応ググっときますかをすると三省堂の全国方言辞典をラップしたgoo辞書がトップに出ます。
むつこい(愛媛の方言)
- 脂っこい。味がしつこい。
- ちーとむつこいかなー、ゆー差しとおみや
- (ちょっと味が濃すぎるかな、湯を差してごらん)
- ※ 東予では「むつごい」。
むつごい(徳島の方言)
味がしつこい。油っぽい。
- 焼き肉はうまいけんどちょっとむつごいな
- (焼き肉はおいしいけれど少し油っこくてしつこいな)
むつごい(香川の方言)
〈味が〉濃い。脂っこい。
- 朝からあげもんはむつごい、こんこでえーわ
- (朝からてんぷらは脂っこい、たくわんでいいよ)
- ※ 人の性格では「えげつない人」をいう。
dictionary.goo.ne.jp音が揺れてはいますが同一概念であることがわかると思います。
ネイティブの感想ですが、記述が物足りない。あと土佐弁・幡多弁*4でも言う*5。
何が物足りないか。香川県の項で少し触れられているがこの形容詞実は特段飲食物のみに用いられるわけではありません。
「むつこい」は捨てられない俚言のひとつで、ひとえに多義かつ標準語語彙での代用が難しく、味覚をはじめ五感全部に使えるのみならない取り回しの良さを備えている
— 2.5+ (@hand_accident) 2018年11月9日
んですね。
「むつこい」の聴覚や視覚、また人物の振る舞いや出来事への転用についてはツイッターを検索することで伊予弁などのネイティブによる用例をしこたま出せる
— 2.5+ (@hand_accident) 2018年11月9日
と言いましたが「むつこい顔」「むつこい声」などを検索するといいです。
「視覚的にうるさい」など共感覚的な表現ーー五感のうち特定のものを他の感覚に比喩的に転用するやつーーは標準語にもないではありませんが、この形容詞は味覚からスタートして様々になります。
「(油ぎって或いは過度にクリーミーで)【味が】濃すぎる/胃に持たれる/しつこい/重い」
— 2.5+ (@hand_accident) 2018年11月9日
が原義だが「けばけばしくて目にうるさい」なども言う、まあストーリーに対してこの語を援用するときは「お涙頂戴などが多くて疲れる」「力点が多すぎる」といった意味かな
これは様子です*6。
あ〜、「主張が激しくて疲れる + (原義の油ぎったしつこさの連想)」か、いや、なんか足りん気もする
— 2.5+ (@hand_accident) 2018年11月9日
これは抽象化(汎感覚化)への足掻きです。
ところで段々執筆に疲れてきて自分のツイートの引用が増えてきていますね。無様か??????
おそらくツイートの合間にいっぱいググりをしていて、用例を見つけて気づきました。
映画の感想記事ですね、今回は淡白に用例として扱います。
ええと読むとわかりが発生しますが、この人自体は「むつこい」を「濃厚であるとか、こってり」と味についての表現として紹介した直後、脈絡なく映画の展開の形容にぶち込んでいます。すごい。でも正しい。
むつこいは地元ではよく聞く、味が濃いと言う意味
— 偏差値45から犯大へ@タバリー (@tabalys) November 9, 2018
とりあえず意味聞かれたら(味について使うことが多いのもあって)「味が濃い」とかっておれも答えるけど方言辞典がそれだけで終わらせてんのは不満なんですよねというイシューがある
— 遡籘 悠 Ezekiella Fuzita (@hand_accident) November 9, 2018
とにかく意味の幅が広く、しかも話者はその広さに無自覚なのでとりあえず原義を簡単に言いがちで、上のブログは端的な例です。その上で容赦なく「共感覚」はするという良い例にもなっています。すごい。
方言辞典を詰めるような言い方にはなっていますが、どうしても全国型の方言辞典かつ収録語数がたったの3800語とかなり小ぶりであること、さらに話者に訊いても上記の理由で味についてしか返ってきにくいなどから仕方なくはあります*7。
っでその上記の短い記事ですが他にも収穫がありました。
全国方言辞典に引かれた3つの例文とは対照的に、(外連味みたいな「半分褒める」表現とはいえ)褒め言葉として使ってるんですね。
原義の時点でニュアンスが難しくて、味の形容よりは「胃もたれ/胸のつっかえを齎す」意に食物そのものの属性を表現するのが主(【味が】より【飲食物が】が正確)っぽい、又(過度の"むつこさ"は大抵不快だが)胃もたれ/つっかえの表現でありながら不快への言及を必ずは意図しない(どちらかというと激しさ)
— 2.5+ (@hand_accident) 2018年11月9日
快不快に触れずに情報の莫大あるいは激甚を形容するので(発話者の趣味に依存するが)「むつこい」を褒め言葉として発することも可能
— 2.5+ (@hand_accident) 2018年11月9日
認識の更新です。基本的にネガティブな形容詞でありながら直接快不快を含意するわけではないので時にポジティブに使えるという点、TCGのスラング「まるい」*8が直接ポジティブな意味を含意しないので貶しとして用いることができる*9点と似ています。
あー、言うわ「食いづらいくらいに甘すぎる」味も「むつこい」わ、別にギットリに限らんね
— 2.5+ (@hand_accident) 2018年11月9日
くどさ、か外せねえ構成要素だな
— 2.5+ (@hand_accident) 2018年11月9日
「くどい」は「執拗」「しつこい」と意味がかぶっているのでこのツイートでは反復性について言及したかったんだと思いますが不可欠というまで大切な要素ではないのでは*12?わからん
あー。
読むの疲れたと思いますし筆者も書くの疲れたのでそろそろ終わりたいです。まとめを
まとめ*13ると、「むつこい/むつごい」の意味は
(食べ物が)(味の)濃さ、(油気、甘みなどの)強さで胃にもたつくような味である
↓(共感覚化)
(色使いが)けばけばしい、豪奢である、視覚的にうるさい
(顔立ちが)濃すぎる、パーツの主張が激しいetc
(物音、楽音が)けばけばしくてしつこいetc
(人声が)過度に演技がかって暑苦しいetc
(出来事が)情報過多かつ執拗であるetc
(話が)(お涙頂戴やお色気など)話の(多くは主菜でもない)力点が過剰で疲れるetc
(
など*14
えー多方面に分岐派生しクソ便利な形容詞になって他都道府県民を悩ませています。
おしまい
*1:関西を除く西日本では広く「ヨル・トル」という二種類の「(し)ている」が区別される。ざっくり言うとbe doingとhave doneの訳し分けが可能で必要
*2:使役?強制?のニュアンスを含む可能表現「サル」が東北・北海道などにあると聞いたが詳しくないのであとで調べます
*3:松山出身なので東予(愛媛県を三分割した東部)や香川、徳島で濁音形であると知って驚いた
*4:高知県の方言は大きく東西に二分されていて、東の土佐弁と西の幡多弁でアクセントや語彙などが大きく違う
*5:それぞれ証言数1ずつで、土佐弁地域出身の後輩と、幡多弁が第二言語の筆者です。な↑っっっし載らんが
*6:ちょうど無料公開中の将太の寿司を読んでいて、さまざまの状態がありました
*7:だからもっと詳しくて正確な辞典あるいは研究を以てグーグルは表示してほしい。お前半分インフラやぞ
*8:無難な、安定したという意。ピーキーの対義語。安定した性能のカードやそれを用いたデッキは事故(デッキがうまく回らないこと、銃のジャムや交通渋滞みたいなやつ)に強いので基本的には良いことであるが、切り札のパワー不足やコンセプトのつまらなさを指していうとネガティブ用法になり得る
*9:でもぶっちゃけあんまり見聞きしないなあ
*10:直感を馬鹿にするな話者やぞ
*11:ただし怒られは大人しく受けます
*12:確かに派手なことを執拗に繰り返されるのはむつこいことが多いが
*13:abstractを最初に書けという強迫的な脅迫が過激派からインターネットのあちこちに今日も飛んでいるらしい、うちには来たことがなく平和なインターネットであることだなあ
*14:しんどいけん代わってや